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わが国では1990 年代以降、地震、津波、豪雨、火山噴火など、大規模な自然災害が相次いで発生しています。多くの災害経験は、私たちにさまざまな教訓を残しています。それらを理解し、伝え、共有し、被災地の復興に生かし、あるいは次なる災害に備えることが求められています。

一方、自然災害はハザードの規模や質だけでなく、それが起こった時代や場所、そこに暮らす人々や社会によって、まったく異なる結果をもたらします。さらに言えば、自然災害は私たちの暮らしを取り囲む多様なリスクの1 つに過ぎません。たとえば、交通事故、犯罪やテロ行為、病原性ウィルス感染といった、直接的に生命を脅かすリスクがあり、あるいは個々人のモビリティの低下に伴う買い物難民化や、家族との死別・別離などによる生活困窮化、社会的孤立化といった、緩慢だが確実に暮らしを危機に陥れるリスクがあります。


とりわけ後者のリスクは、万人に等しくふりかかるのではなく、より脆弱な個人や地域、コミュニティに対して強い影響を持つと考えられます。そのリスクは個別性を持つゆえ共通理解が得られにくく、見逃され、結果的に脆弱な個人や地域、コミュニティがよりリスキーな状況に陥るという構造があります。

つまり、日常の生活空間のリスクを捕捉しようとする場合、ひとつはいかにその網羅的なリストを作成できるか、いまひとつは脆弱性につけこむ個別のリスクをいかに見出すかが重要であると考えられます。

できるかぎり多様なリスクを見渡し、どのリスクを退け、どのリスクをどの程度まで受容するのか、もっとも脆弱な部分へのリスクを回避し、より耐力のある部分によって受け止めることのできるリスクへといかに置換するか。いま私たちに求められているのは、このような問いに向き合うことではないでしょうか。無数のリスク間の関係性を読み解き、社会的公正に照らした最適解へと再配置すること、それを私たちは「リスクデザイン」と呼ぶこととしたいと思います。

災害の教訓には、災害への備えだけでなく、おそらく災害後への備えが含まれています。災害後への備えとは、すなわち先に述べたような「緩慢だが確実に暮らしを危機に陥れるリスク」を回避する手立てにほかなりません。その教訓を発⾒し、普及させることが、「リスクデザイン」という試みの第一歩であり、本会はその実践を担っていきたいと考えています。


リスクデザイン研究所
Risk Design Institute